聖書箇所ーローマの信徒への手紙一11:25~36(新約P291)

◇使徒パウロはローマにいるキリスト者に向けて語る。ユダヤ人(イスラエル)はアブラハム以来、神に選ばれた民でありながら、神を信じる信仰よりも、行いを重視する律法主義に陥り、キリストを拒絶した。

◇そうしてユダヤ人は信仰につまずき、神とキリストを信じる異邦人が救われようとしている。だがここに神の「25:秘められた計画」がある。「25:兄弟たち、次のような秘められた計画をぜひ知ってもらいたい。一部のイスラエル人がかたくなになったのは、異邦人全体が救いに達するまでであり、26:こうして全イスラエルが救われるということです」。

◇「秘められた計画」とはミステリーと訳せる。キリスト教は人間社会のリアリティーの中に、神のミステリーという人間の届かない領域を含んでいる。

◇パウロは同胞ユダヤ人の拒絶を受けて、方向転換して異邦人に福音を宣べ伝え、やがてキリスト教は異邦社会であるローマ帝国の公認宗教となった。その後教会は一時堕落もしたが、16世紀の宗教改革以後、一気に盛り返して世界の隅々にまで福音を宣べ伝えてきた。

◇世界全人口の3分の1、約22.5億人がキリスト教徒だ。「25:異邦人全体が救いに達する」という神の計画が進行している。その原点は皮肉にも「25:イスラエル人がかたくなになっ」て、キリストを拒絶したことだ。私たちの家族や友人に信仰を受け入れない者がいても、その背後に神の「秘められた計画」があり、やがて救いに到るという希望がある。

◇「31:彼ら(イスラエル)も、今はあなたがた(異邦人)が受けた憐れみによって不従順になっていますが、それは、彼ら自身も今憐れみを受けるためなのです」。「」が二度あり、現在と将来が密着している。将来が現在に影響を及ぼすという時間の見方を「キリスト教的終末論」という。

◇神は天地万物を、決して気まぐれに造ったのではない。すべてを終末の目標に向けて創造された。その目標は救いの完成だ。聖書の終末論は、神による救いの完成する未来を信じて、希望をもって今を生きることだ。

◇パウロは同胞ユダヤ人の不従順に悩んだ。神の選びに反するとしか思えなかった。だがここにも必ず神の救済計画あるに違いない、と信ずる信仰がパウロにあり、それが彼に「ローマの信徒への手紙」を書かせた動機でもある。  大村 栄